どんでんがえし
全く、正人のような平凡な高校生が、アウトローまがいの人間に狙われる時代だ。
俺は沢木さんにお礼を言った。
「親の監督不行き届きとはいえ、正人を救っていただいてありがとうございます。小さい時から、一人っ子で、世間知らずで育ってきたもので、少々さびしがり屋のところが気になってたんですけどね」
沢木は、苦笑いしながら言った。
「でも、正人君は本当に勉強好きでいい子ですよ。もっとも、私は優等生とは遠い世界にいましたがね」
沢木の顔は、温厚である。
新聞で読んだが、本当にこの人が、アウトローだったのだろうか?
「私は、過去のことを隠しだてするつもりはありません。しかし、こういった過去があるから、逆にそれを活かして、今、青少年活動に取り組むことだできるんですからね」
人生には、無駄なものはひとつもないというが、すべての人が沢木のように、過去を現在の糧として、生きていくことができたらと思った。
沢木って、本当に元アウトローなのかな?
沢木の昔の写真を見せてもらった。
顔立ちは変わりはないが、表情はまるで別人だ。
なにが沢木をこれだけ、変身させたのかは謎としかいいようがない。
機会があれば、聞いてみたい。
「沢木さん、今日はありがとうございました。また、呼んで下さい。俺もいつまでも、世間知らずといったわけにはいきませんのでね」
沢木は、少し名残惜しそうに言った。
「うん、そうだな。若いうちに、人を見る目を身につけなきゃな。じゃ、さようなら」
「さようなら」
正人は、ドアを開けた。
俺は、もう少しこの場所にいて、現在の青少年問題を知りたいと思った。
結局それが、正人を知る橋渡しとなる。
携帯のベルが鳴った。
元妻の律子からだった。
「もしもしあなた。あなた、正人に料理とか裁縫とか教えてるの? 最近、正人がおかんの負担にならないようにと、一人で料理を始めたり、ボタン付けやほころびを塗ったりするようになったのよ」
「えっ、俺は特別に教えたことなんてないよ。しかし、小さい時、見よう見まねで覚えたんじゃないかな?」
血は争えないとは、よく言ったものだ。
しかし、正人が律子をいたわっているということ事実に、正人の成長を感じ、ちょっぴり誇らしかった。
俺は、雑用とはいえ、現在の仕事も板についてきた。
まかない料理も、掃除ももっと本格的にやってみよう。
自分の為に生きるより、他人の為に生きてみよう。
自分にこだわって生きていると、息苦しくなるが、他人のためだと、相手の成長が嬉しい。
もう、四捨五入すると五十歳になるが、これが俺の第二の人生のスタートラインだと、俺は張り切っていた。
そしてそれが、正人の生き方に良い影響を与えるはずだと、父親としての甘い期待に浸っていた。
E N D
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