高年齢化とリストラ社会

 四十一歳のリストラ候補女性主任ー高谷といったーは、三か月前から様子が変わったと評判の女性だ。
 三か月前までは、ごく普通の口うるさい女性主任だったが、急に暗い表情になり、人を寄せ付けなくなってしまった。
 何かあったのだろうか。
 まあ、自分がリストラに遭うから、最後のあがきだろう。
 それとも、転職先が決まらなくて、いらいらしてるんだろうか?

 さあ、今月中に高谷主任を、リストラに追い込まねばならない。
 いくら仕事とは割り切っていても、気がひける。
 高谷は、行き場があるのだろうか?
 離婚歴があり、年老いた母親と二人暮らしだというが、将来を考えたことがあるのだろうか?

 リストラの極意
 まず、冷たい態度に豹変し、叱りつけることだ。
 これを三回すれば、ああ、自分はリストラ候補生であるということに気づく。

 これで聞かなかったら、会社の事情を説明する。
 どんなに赤字で、経営困難に陥っているか、そして、別の道を選んだ方が幸せだということを、気付かせる。

 最後の手段として、希望退職者制度に誘導する。
 しかし、一応一カ月分給料を先払いし、退職金も十万円以下である。

 大抵の人間は、希望退職者制度までしつこく粘る。
 しかし、俺の役目はそれまでにというより、一カ月以内に退職に追い込むのが、仕事である。
 そうしないと、組合でもつくったりされると、マスコミ沙汰になり、労働基準法などに引っかかるからだ。

 
 

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高齢社会とリストラ化

「ほら、またそんな怪訝な顔をして。君はこう考えてるだろう。社員が会社に媚びるのは当たり前だ。首になりたくない一心で、少々のことは我慢するのが、雇われ人の努めだなんてね」
 やはり、この社長はやり手かもしれない。
 実は、前代の社長の息子で、アメリカ帰りだという。
「君は、まだまだ甘いよ。私は英語もろくにわからないまま、アメリカに行って非常に苦労したんだ。アメリカは、人種差別もあるし、物が故障してもすぐに直してくれるわけでもない。情などまったくなく、大変な訴訟国家だ。」
 初めて聞く話だ。
「僕は、この会社をアメリカンナイズしていきたいと思っている。これしか、生き残っていく道はない」
 まあ、昨今は、麻薬とかで、アメリカ化してきてると思うが、しかし、日本は単一民族、アメリカは異民国家だ。
 なのに、戦争が起こらないのは、キリスト教国のおかげだという。

 社長は、なぜか立ち上がり、俺に珈琲を入れ始めた。
「さあ、リストラ第一号は、四十一歳の女性主任だ。まあ、あの人はすでに自分が、リストラ候補生であるということを知っているはずだ。だから、やりやすい。君の腕の見せ所だよ」

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高齢社会とリストラ化

 まあ、その息子にしてみたら、親父がリストラになると無収入になる。
 だから、カッとするのは仕方がないが。

 しかし、来年から、年収三百万以内の家庭は、私立高校は授業料無償になるという。
 また、公立高校と私立高校の比率は、7:3であるが、公立高校の定員を三千人以上増加させるという。
 俺はその記事を新聞で読んだとき、正直ほっとした。
 これで、恨まれる分量が減少した。

 喫茶店で立ち聞きした会話が耳に残ってしかたがない。
「リストラ専門人事部長なんていうのは、嫌われ役の恨まれ役。能力のない人が任命されるものだ。
 だから、任命された時点で、もう退職届をだしてくれて結構ですよと宣告されたようなものだ」

 俺がその、恨まれ役に格下げしたのか。
 まあ、思いあたる節はある。
 俺は、昔からつきあい下手で、社交性のない性格だった。
 二十歳までは、ほとんど友人もいなかった。
 そんな自分を必死で変えたくて、高校を卒業してから、資格をとったり、いろんなサークルに出入りして、社交性を身につけたつもりだ。
 人から嫌われたくない一心で、いろんな人と話す努力もした。
 さあ、これで、嫌われ者に格下げしなくてすむと安堵していたら、今度は恨まれ役か。
 全くついていない。

 社長に呼び出された。
「人事部長というのは、会社にとって、必要不可欠な存在なんだ。そりゃあ、誤解されたり嫌われたりすることもあるだろう。しかしだ、世の中というのは、排気ガスかこえ溜めのごとく、そういう人物が必要なんだ。犯罪を犯すわけでもなく、リストラというのは、会社再構築のために、仕方のないことなんだ。ちょうど、蝶が殻から脱皮するように、
不要な人間を脱ぎ棄てていかねば、会社は生存しないんだ」
 こえ溜めだと?
 古いたとえだな。
 俺は、思わず怪訝そうな顔をした。
 だいたい俺は、感情がすぐ表にでる正直な人間だ。
 社長は思いついたように言った。
「そうだ。その顔。君はいつもそういう顔で、リストラ候補生を叱りつけてほしいんだ。しかし、感情で怒鳴ったりすると、愛の鞭だと勘違いされる。だから、あくまで冷めた顔、しらけたような表情で、嫌味をいってほしい」
 ええっ、俺は三文芝居の役者か。
「君は、役者修業をしていると思ってほしい。嫌味を言うだけではなく、ときにはやさしく『あんたを見ていると気の毒である。あんたは、別の道を探した方が、身の為だと思う』と説得してほしい。涙を流し、顔を歪め、いかにも苦痛に耐えかねるように切実に、訴えてほしいんだ」 
 そんな器用な演技が俺にできる筈がない。
 俺は思わず、カーっとした。
「なんだ。君、そんな怖い顔で私をにらみつけて。何か恨みでもあるの?」
 いや、今のところは恨みはないけど。
 しかし、もしこのことで、社員から恨まれると、俺は社長を恨みそうだ。
 社長は、能面のような冷静な顔で言った。
「君は、これといって能力のない社員だということは、自分もいちばんわかってるよね。本来は、君を真っ先にリストラするところだったんだ。しかし、まあ君には別の能力があるようだ。私はその能力を活かしたいと思ってるんだ」
 別の能力?
 俺は、この通り平凡な人間で、特殊能力などある筈がない。
「はっきり言おう。会社に媚びる能力だ。君は今どき珍しい、企業戦士ならぬ会社奴隷だ」
 別に俺でなくても、職場で上役に媚びる部分というのは、誰でもあるじゃないか。
 たとえば、小さな喫茶店でも、首になりたくない一心で、ウエイトレスが店長のセクハラを我慢するということは、当然、ある話じゃないか。
 
 

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高齢社会とリストラ化

 ついに来るべきものが来た。
 内心、びくびくと怖れていたが、きっと任命されるだろうと予想していた、呪われ役ーいわずと知れた、リストラ専門人事部長に俺が選出されたのだ。

 いや、選出などというと、おこがましいに決まってる。
 だいたい、このリストラ専門人事部長なんてのは、もう会社にとって、用済みの能力のない、リストラ一歩手前の社員が選ばれるのだから。
 
 俺の部署は、三年前から売り上げが左前だったが、ついに去年、半分以上の社員がリストラに遭い、もう閉鎖部署になってしまうだろうと予測されていたが、ついにそのときが訪れたのだ。

 以前の人事部長は、急に退職した。
 原因は、表向きは病気治療に専念したいとのことだが、実態は、ストレスから生じる被害妄想、幻聴、そこから生じる数値200以上の高血圧だった。
 酒もたばこもまったくしない人だったが、想像以上のストレスがたまっていたのだろう。
 だいたい、人を傷つけて良心の呵責を感じるという善良な心の持ち主ほど、ひどいストレスを感じるという。

 しかし、噂によると、リストラを言い渡した社員の息子に、ビール瓶で殴られたらしい。
 なんでも、その社員は、リストラになってから一年間、無職で、息子は当時、金のかかる仏教系私立の高校生だったが、それが原因で中退に追い込まれたらしい。
 
 なんでも、その私立高校は、煙草を所持している現場を教師に見つかっただけで、退学というような、厳しい高校だったという。
 制服のまま、入店できる飲食店も、学校指定の中華料理屋かそば屋と決まっているという、極めて生徒を型にはめようとするがんじがらめの高校で、授業料も一般の私立高校の1.4倍だったらしい。

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転落女のうめき声

 私はたか子。
 そう、転落女の尻拭いばかりさせられていた、損な女。

 どうしたわけか、私は今、健康で何不自由ない生活を送っている。
 風俗に帰っていった転落女とは、まったく正反対の生活ぶりだ。

 でも、ふと思う。
 人間誰でも、幸せになりたくて産まれてきたのに、不幸になるのはどうしたことか。
 金、健康、人間関係に恵まれないからか。

 転落女と私との共通点は、正直で、盗みや騙しをしないことだった。
 ひょっとして私も一歩間違えれば、転落女と同じようになっていたかもしれないなどと、思ったりもする。

 また、世渡り上手と思って、上役の不正を報告せず、かばったばかりに共犯者にされ、解雇されたケースもある。

 やはり神と共に生きるのが、いちばんである。

 嘘や隠していたものは、暴露するときがくる。
 第一、隠すのがしんどい。

 時代は変わる。
 過去にこだわっていても仕方がない。
 むしろ、現在生きていく上で、弊害になるだけである。

 これからどう生きていくか、模索中の人は多くいる。
 高齢社会、リストラ、麻薬・・・
 若い人でも、就職が難しい時代である。
 これからの日本は一体どうなっていくのだろう。
 
 世と世の終わりには、偽預言者が出没するという。
 最初は人に媚び、そして人の不安感をあおるようなことを言って、金ばかりか精神まで破壊する。
 怖いことだ。

 さあ、今こそ神と共にいき、伝道の種まきをしていく必要がある。
 種まきは人間のすることだが、成長させて下さるのは神である。

 ハレルヤ

 

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転落女のうめき声

 この世にたか子さえ、いなければ。
 いや、たか子のような女さえいなければ、私はもっと幸せに生きることのできたはずだ。

 私はたか子を憎むことで、新たなエネルギーを得ていた。
 そんなことは、罰当たりのお門違いであるということは、百も承知のはずだ。

 しかし、私にはそれしか、方法はないのだ。
 徐々に衰えていく肉体と精神。
 まるで、坂道を転がり落ちるように、疲労にたまった身体は、とどまるところを知らない。

 ある日、私はなんと朝九時から、晩十一時まで、残業をやらされた。
 たぶん、たか子のせいだ。
 そうに違いない。

 私はたか子に、口汚くののしった。
 まわりのバイト仲間は、ポカンと口を開け、まるで珍獣を見るような目で私から目を伏せている。
 やはり、私はこういう職業には向いていないらしい。
 ここは、私の住む場所ではないのだろうか。

 とうとう私は病気になってしまった。
 一度風邪をひいてしまったら、もう治らない。
 せきばかりして、苦しくて仕方がない。
 しかし、負けるものか。
 私は、このラーメン屋で居座っている。

 ここしか私の幸せの道はない。
 いずれは、息子も呼び寄せて、将来は居酒屋を開店するんだ。

 私はたか子に注文をつけることにした。
 本来は、筋違いであるということは、わかっていても、私には人に嫌味を言って、傷つける以外、生き残る方法は残されていないのだ。
「あんたは、いつも私の言う通り、荷物運びをしてくれたことがないじゃないの」
 たか子は、怪訝な顔をして、ニヤリと不適な笑顔を浮かべた。
「あのう、なにか勘違いなさってません?」
 勘違い? それどういうこと?
「私がいままでやってた荷物運びは、みなあなたの仕事なんですよ。野菜を運ぶのも、肉を運ぶのも、氷を製氷皿から入れて運ぶのも、みんなあなたがする仕事なんですよ」
 えっ、まさか? そんな馬鹿な・・・
「今まで、私は一生懸命仕込みをしてきた。一分でも手を休めたことがあったか?」
 たか子は、半ばあきれたような薄ら笑いを浮かべた。
「そんなこと、私に言われても知りませんよ。店長が決めたことなんだから、文句があるなら店長にどうぞ。私は店長の命令で、今までずっとあなたの尻ぬぐいをしてあげてたんですよ」
 相変わらず、理論的で丁寧な言葉遣い。
 決して、私の真似できない世界である。
 やっぱり、この女にはかないそうにない。
 
 もしかして、たか子は、人の好い女なのかもしれない。
 だって、自分の仕事以外に、私の尻ぬぐいまでさせられてるんだから。
 しかも、文句ひとつ言わず、私に嫌味を言われても動じることなく。
 たか子のような女こそが、強く生き残っていく女なのかもしれない。

 しかし、これでは負けを認めることになる。
 私は若くないし、もう人生に希望もない。
 やっぱり、私の住む場所はこのラーメン屋ではなかったようだ。
 驚愕と自分に対する劣等感、そしてたか子に対する嫉妬の感情がむらむらと湧きあがった。
 しかし、それは、また元の世界へと堕ちていく、絶望の序章でもあった。
「なによ。あんたなんか、私よりちょっとばかり、身体が大きくて、ときどき、指を震わせて、気味が悪いのよ」
 罵倒したあとでは、ちょっぴり後悔が残った。

 やっぱり、私の住む場所は、このラーメン屋ではないということを、痛感させられた。
 私は、店長に逆らって解雇され、もとの風俗稼業に戻ることになった。

 あーあ、あのとき、もっとたか子にとり入って、たか子の機嫌でもとっとけばよかった。
 良くも悪くも正直さだけが、私の取り柄。
 それが裏目に出た。
 たか子は、私の敵ではなくて、私の味方だったことに気がついたときは、もう後の祭り。
 私はもう、二度ともとに戻れない別世界の人間なんだ。

 もう一度、たか子のような女に会えるだろうか?
 わからない。
 それより、日々狂っていく頭をなんとか、正常に戻さなきゃ。
 私の行くべきところは、どこなんだろうか?
 
 神のみぞ知る運命でしかない。
 苦しいときの神頼み、いやたか子頼み。
 たか子、もう一度私のそばにいて、私を助けて。
 そして、私と人生、入れ替わろうよ。

 嗚呼 人生の下り坂・・・
 

 

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転落女のうめき声

 私は三十五歳の、元風俗嬢で、今はラーメン店バイト店員。
 離婚し、田舎に残した息子を呼び寄せるためにも、このラーメン屋でがんばらなきゃならない。
 と思っている矢先に、たか子という、敵のような女が入店してきた。
 この女を仕事面で利用したあげく、退店に追い込んでやる。
 それが、唯一の私の生きる道である。

 私が地下一階で仕込みをしていると、どうしたわけかたか子がやってきた。
 私が仕込みした材料を無断で、一階に運び出す。
 一体、どういう了見だろう。

 たか子は、最初は下っ端の皿洗いだったが、次第にホールに昇格するようになった。
 やばい。ひょっとして、たか子の存在と同時に、私は解雇されるかもしれない。

 私はその当時、カウンターの調理場で、餃子を焼いたり、レジをしていたが、たか子に野次を飛ばした。
 しかし、たか子は、いつものノー天気な笑顔を浮かべるだけで、知らん顔だ。
「ねえ、あんたのはいという言い方、叫んでるみたいなんよ。辞めてくれないかな」
 たか子は、急に私を見て笑い出した。
 私は、カウンターから飛び出し、たか子の腕を掴んで引きずり出そうとした。
「やめとけ。おばさん、やめとけ」
 カウンター席の客から、制止する声が聞こえる。
「警察を呼びますよ」
 勝ち誇ったようなたか子の声が、耳に入った。
 警察?
 思わず私は笑った。
 私はいつも、被害者である。
 断じて加害者ではない。
 私はたか子の腕を放したが、店長の命令で、地下一階のホールに回されることになった。

 また、私は職場でトラブルを起こしてしまった。
 しかし、このラーメン店は大丈夫。
 だって、三か月程度で辞めていく人が多いんだもの。
 ここは、私の居場所である。

 しかし、身体はいうことはきかない。
 腰が痛く、疲労感が翌日まで抜けない。
 こんな日がいつまで、続くのだろうか。
 私は不安になった。

 たか子の方は相変わらず、マイペースだ。
 いや、それどころか、この頃はチーフや、店長とも軽口をたたき合える間柄になってきている。
 もう、いらいらして仕方がない。
 すべて、たか子が悪いんだ。
 不幸の元凶はたか子である。

 
 

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転落女のうめき女

 案ずるより産むがやすしとはこのことだ。
 私は、ラーメン店にバイトとして就職してから、もう半月たとうとしている。
 最初はとまどいを感じたが、私は決死の思いで仕事を覚え、一人前になった。
 しかし、忙しい。若い子は、すぐ辞めていく。
 なかには、一日で辞めていく子もいる。

 ようやくやり直せる。
 いや、やり直してみせる。
 そうすれば、息子とも胸を張って再会できる。
 私は肉体疲労とは、反比例して希望に胸を踊らせていた。
 しかし、この仕事はしんどいわりには、時給は対して高くはない。
 だから、私のような中年女でも務まるだろう。

「あのう、面接にお伺いしました」
 私より、ひとまわり年下の、アイドル女優のような女が、面接にやってきた。
 ある人気女優に似ている。
 私は反射的にやばいと思った。
 私の敵は、いつもこのような女なのだ。
 容姿端麗、可愛い笑顔、そして、丁寧な敬語・・・
 どれをとってみても、私には到達不可能である。
 だいたい、デリバリーヘルスをしていたときから、こういう女のお陰で、私は下品な客をあてがわれ、日陰の身に落とされてきたのだから。

 その女ーたか子といった。
 最初は、私と同じとまどい気味だったが、すぐ仕事には慣れていった。
 バイト仲間の受けもいい。
 私にできない、暗算や力仕事もすいすいとこなす。
 筋違いな妬み、醜い中年女のやっかみだとわかっていても、私はたか子を目の敵にせずにはおれなかった。
 今のうちに、たか子を退店に追い込む必要がある。
 そうしなければ、私がクビになる。
 すごい不安が襲ってきた。

 私はなぜか、たか子と組まされることになった。
 開店前の仕込みを、地下一階でしていると、たか子がその仕込み材料を一階に上げるのだ。
 しかし、たか子は、いつも勝手に仕込み材料をもっていく。
 邪魔な奴だなあ。
 私にできること、それは、いやみ作戦だった。
 私は今まで、世間から罵倒されてきたいやみを、たか子にぶつけることにした。
 たか子の精神を傷つけること、それが私にできる精一杯の抵抗だった。


 
 

 
 
 

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転落女のうめき声

 しかし、本番風俗に身体が慣れるということは、頭脳も精神も慣れていくということだ。
 ちょうど、麻薬のように、私は廃人と化して行くのだろうか。

 この頃から、私は二日酔いのように、頭がボーっとしたり、物忘れが激しくなったり、急にカーっとし、暴れたいような衝動にかられるようになった。
 やはり、私は狂人と化したのだろうか?

 こんな商売が、そうそう永く続く筈がない。
 売れっ子ならともかくも、私はほとんど客はつかなかったし、リピートされることはなかった。
 こういう業界は、固定給というのは存在しない。
 売上の半分が、給料になる。
 
 ある日、店の雇われ店長から呼び出しを受けた。
「あなたさあ、客から苦情が出てるんだよね。まあ、田舎弁は仕方ないとして、ふてくされたような下品な態度と言葉遣い、なんとかしてくれない? これは仕事なんだよ。店の品格にも関わるしね。もし、店全体の売上が下がったら、あんたのせいだよ」
 私は、ムーッときた。
 なんだ、風俗雑誌では、高収入で月百万円なんてうたってたくせに、実際私の給料は、二十万円にも満たないじゃないか。
 こんなの、こちらから願い下げだよ。
 三か月間、在籍したデリバリーヘルスを辞職した。

 でも、考えてみれば、ラッキーだったかもしれない。
 だって、若い二十代くらいの子だったら、アウトローに騙され、ヒモにさせられたりしてる子、見てきたものね。
 まあ、私は年増の三十五歳。
 これから、人生を変えていく為に、再就職を探さなきゃ。
 しかし、世間はそう甘くはなかった。
 
 ハローワークに行っても、面接までもこぎつけない。
 飲食店を捜すしかなかった。
 喫茶店、食堂、居酒屋、立ち飲み屋・・・
 どれも、若い子ばかりだ。
 四捨五入したら、四十歳の女の行くところは限られている。

 ふと立ち寄った、繁華街の喫茶店。
 久しぶりにコーヒーを飲んでみた。
 煙草を吸おうとしたら、禁煙席だということで断られ、窓際の席に移動させられた。
 有名居酒屋のチェーン店の、ラーメン屋の求人広告が目に付いた。
 なんと、十六歳から年齢不問と書いてある。
 よしっ、面接に行ってみよう。
 私は、救いの光を見いだした心境だった。

 

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転落女のうめき声

 いつからだろうな。私の人生が狂ってしまったのは。
 ふと、そんなことを考えてしまう。
 しかし、過去を反芻しても、現在に何の利益もないことはわかっている。

 今、繁華街のティールームにいる。
 面接用に、白塗りの化粧に、若づくりのためのピンクの口紅、金色のイヤリングに、黒のパンツスーツを着て、なるべくスリムに見えるように努力している。
 えっ、何の面接かって?
 勿論、企業面接である筈がないじゃん。
 そう、余り大きな声で言えないんだけどね、風俗ーいわゆる年増専門のデリバリーヘルスの面接よ。
 この風俗稼業、年齢の増加とともに、堕ちていく一方だ。

 自分がこんな風になるとは、夢にも思わなかったなあ。
 しかし、なぜだろうなあ。
 私は嘘や騙しの大苦手な、正直さだけが取り柄の女。
 おべっかをつかったり、人に機嫌をとったり、隠しごとのヘタな女。
 言いかえれば、世渡り下手の不器用な女。
 だから、ダメなのかなあ。

 今はまだ、思考力が正常だ。
 しかし、頭がボーっとするときがある。
 そんなときは、考えようにも考えることができない。
 そして、人に八つ当たりしてしまう。

 私は、山陰の田舎で育った。
 まわりは、山以外何もないところ。
 高校の時は、女子バレー部だった。
 まあ、あまり程度の高くない女子高だったけどね。
 卒業して、地元の工場で知り合った上司と結婚した。
 まあ、相手は罰一、子なしだったけどね。
 最初の三年間はうまくいっていた。
 息子も三人産まれた。
 しかし、単身赴任先の東京で、銀座クラブのホステスに入れあげ、サラ金で借金を背負うようになり、離婚。
 そして、私は、そのホステスの顔に傷害を負わし、慰謝料を払うためにまた、サラ金で借金を重ねた。
 これだったら、警察沙汰になった方が、よかったかなあ。

 サラ金のかたに、関西の風俗に行くことになった。
 いわゆる、セクキャバというところね。
 サラ金の請求書に「あなたの借金返済のお手伝いを致します」と書いてあるから、なんだと思ったら、案の定、お定まりのケース。
 二十歳前後の子は、いいわよ。
 化粧でごまかして、タッチだけだから。
 しかし、私のような二十五歳を過ぎた女だと、タッチだけでは金にならない。
 店外デートをしなければ、借金返済はできない。
 私は、泣く泣くホテルに行った。
 これも、金の為ーそう割り切らなきゃやってけない。
 こんな日が、いつまで続くんだろうなあ。
 なんとか、半年で借金は完済した。

 しかし、風俗って、確かに辛いけど、慣れたら最初のような恐怖感や、屈辱感は徐々になくなっていく。
 なんだか、解放されたような気になるから不思議だ。
 それとも、私の脳みそが、腐っていってるのかな。
 ひょっとしたら、性病なのだろうか?

 
 
 

 
 

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